膝関節鏡外科医のblog

兵庫医大で膝関節専門医として関節鏡手術や膝周囲骨切り術をしています。 当グループで行なっている最新の関節鏡手術や 学会・研究活動などを知っていただくためのブログです。准教授、医学博士、日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会スポーツ医、日本体育協会スポーツ医、膝関節鏡技術認定医、日本Knee Osteotomy Forum世話人、関西Knee Osteotomy研究会世話人、兵庫県膝関節研究会世話人、2014年ドイツチュービンゲン大学留学、2014年、2017年、2018年AO Davos knee osteotomy master course faculty、前医局長 六甲山はぁはぁ倶楽部チームドクター

2012年12月


膝の裏にできた水の袋を膝窩部嚢腫 (popliteal cyst)(ベーカーズシスト)といいます。
今回はこの原因と当科で行なっている関節鏡視下嚢腫切除についてのお話です。

山下孝 poplyteal cyst2
Bakerさんが初めて報告したのでベーカーズシストと言われています。

山下孝 poplyteal cyst1
MRIで膝の後ろに袋がてきているのがわかります。(白い部分)

山下孝 poplyteal cyst3
定義はこのようになっています。

山下孝 poplyteal cyst4
原因です。

山下孝 poplyteal cyst5
弁のような構造になっていますので、関節内からシスト内へでた関節液が
戻らず、溜まる一方になります。

山下孝 poplyteal cyst6
膝関節内に関節駅が溜まる理由として、半月板損傷があります。

山下孝 poplyteal cyst7
治療法です。膝関節内に関節液が溜まる原因を解決しないと、溜まり続けます。

山下孝 poplyteal cyst8
切開摘出では弁の構造が残るため、再発します。
また、傷も大きく残ります。

山下孝 poplyteal cyst9
そこで、保存的治療が無効な人には関節鏡を用いた手術をしています。

山下孝 poplyteal cyst10
この報告は韓国のAhn教授のものですが、手術後著明にサイズが小さくなっています。

当科では右の写真の様に小さい傷でベーカーシストの治療を
関節鏡で行っております。
19
以前は大きく切開しておりましたが、関節鏡では小さい傷で治療することができます。
そのため、退院も早くなります。

ベーカーシストでお困りの方、
毎週のように水がたまり、膝の裏の水を抜いておられる方、
当科では関節鏡でベーカーシストを治療しております。
他の病院で大きく切らないとダメだと言われた方、
ご相談ください。

兵庫医科大学病院 整形外科 助教 中山 寛
スポーツ関節鏡外来
月曜日:13時~17時
水曜日:9時~17時
 (上記時間内にお越しいただくか、お電話下さい)
Tel: 0798-45-6180 
 mailにて相談していただいても構いません。
E-mail:hyomedsports@yahoo.co.jp

下肢関節鏡手術
股関節鏡、膝関節鏡、足関節鏡手術:
前十字靭帯再建、半月板縫合、股関節唇縫合、
膝関節温存手術(骨切り術)を主に行なっております。
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前十字靭帯再建術後のリハビリテーションのポイントを示します。


1
.術後早期(3カ月以内)のリハビリテーション

 移植腱自体の力学的特性においては、使用される自家移植腱はいずれも、採取時(手術直後)には十分な強度を有している、と考えられています。正常前十字靭帯の強度は約2000Nとされていますが1)、膝蓋腱はそれを上回り2,3)、また、4重折りでの半腱様筋腱の初期強度はさらに高い(約4000N4)。一方、固定部位の強度は固定法により異なりますが、現在臨床的に使用されている各種固定材料によって得られる固定強度は、いずれも400-500Nを上回り、日常生活において再建靭帯に加わる荷重(おおむね500 N以内)には耐えうるものである、と考えられます5)。従って手術直後には、再建ACLは日常生活動作に耐えられる程度の初期強度を有しています。ただ、術後に移植腱はいったん阻血壊死に陥り、その強度は低下するとされています6)

 一方、術後のリハビリテーションプログラムにおいて、再建靭帯に加わる荷重については十分には分かっていませんが、伸展位付近での大腿四頭筋の単独収縮ではACLに大きな張力が加わることや、スクワットなどいわゆるclosed kinetic chain 訓練は早期から行っても安全であることについては、コンセンサスが得られています。


2
.スポーツ復帰に向けた(3か月以降の)リハビリテーション

術後の生体内での力学的特性の変化は未だ解明されていませんが、再建靭帯壊死後の組織新生や成熟、そして腱・骨間の癒合がおこり、スポーツ活動に際しても十分な再建靭帯の強度が再獲得されるには、612カ月程度の長期間を要する、と想定されています6,7)

移植腱治癒過程の生物学的、生体力学的両面での理解、手術術式やリハビリテーションの改善などにより、手術成績は改善してきており、80-90% 程度の高いスポーツ復帰率も得られていますが8)、一方で術後に再建靭帯の再断裂をきたす例も少なからず存在します。術後の再断裂率については一般には510%程度と報告されています9-11)。しかし再断裂率はスポーツ種目や活動レベルによっても異なり、トップレベルのハンドボール選手を対象とした長期(平均7.8年)の経過観察では、術後プレー復帰した選手の22%に再断裂が生じた、という報告もあります12)。若年者、損傷リスクの高いスポーツへの復帰は、再断裂の危険因子とされています7,8)。再断裂は術後早期に生じるものも多く、我々の経験でも再建靭帯の再断裂の約半数は6カ月から1年以内に生じていました13)。また術後の再断裂については健側に生じるものもあり、その頻度については、手術側とほぼ同様、という報告があります10,11)。このことは、患者背景(年齢、スポーツ種目)や骨形態、アライメントなど、ACL損傷のハイリスク群とされる患者には、手術側・健側ともにスポーツ復帰時期のアスレティックリハビリテーションを十分に行う必要があることを意味しています。


IV.術後リハビリテーションプログラムの実際

術直後より廃用性筋萎縮や膝蓋骨可動性低下の予防のため、大腿四頭筋セッティングや膝蓋骨モビライゼーションを指導します。術後3日目より股関節周囲、体幹筋トレーニングを実施します。荷重は術後1週より開始し、痛みに応じて徐々に全荷重へと進め、術後2-3週で独歩自立を目標に歩行訓練を進めます。可動域訓練は術後1週より開始し、最初は膝関節屈曲90°制限から開始し、術後3週より屈曲110130°目標に進めます。術後3カ月までの膝関節伸展筋力トレーニングはダブルチューブや等速性のトルクマシンを使用し、膝関節屈曲60°までの伸展制限下で実施します。closed kinetic chain訓練は体幹や下肢のアライメントに注意しながら実施し、術後1週よりハーフスクワット、3週よりスクワットや静止スケーティング、4週よりknee bent walkingやバランストレーニング、5週よりランジと進めます。特に再受傷のリスクとなる膝関節外反や回旋をともなうマルアライメントには注意を要し、早期に修正する必要があります。また再受傷予防のために、図に示すようなコアスタビリティトレーニングも推奨されています(ベンチ、サイドブリッジ、片脚ブリッジ)。

術後3カ月より膝関節伸展筋力トレーニングは角度制限なしで実施します。可動域は術後6カ月以降で正坐(必要時)を許可します。術後3カ月より軽めのスクワットジャンプ、4カ月よりジョギング、5カ月よりダッシュ、6カ月よりカッティング動作を許可し、徐々に活動性を高めます。競技復帰は術後8-9カ月を目標に進めます。


1)  Woo S L-Y, Hollis JM, Adams DJ, et al. Tensile properties of the human femur-anterior cruciate ligament-tibia complex: The effects of specimen age and orientation. Am J Sports Med, 19:217-225, 1991.

2)  Noyes FR, Butler DL, Grood ES, et al. Biomechanical analysis of human ligament grafts used in knee-ligament repairs and reconstructions. J Bone Joint Surg, 66A:344-352, 1984.

3)  Stӓubli HU, Schatzmann L, Brunner P, et al. Mechanical tensile properties of the quadriceps tendon and patellar ligament in young adults. Am J Sports Med, 27:27-32, 1999.

4)  Hamner DL, Brown CH, Steiner ME, et al. Hamstring tendon grafts for reconstruction of the anterior cruciate ligament: biomechanical evaluation of the use of multiple strands and tensioning techniques. J Bone Joint Surg, 81A:549-557, 1999.

5) Steiner ME, Hecker AT, Brown CH Jr, et al. Anterior cruciate ligament graft fixation: comparison of hamstring and patellar tendon grafts. Am J Sports Med, 22:240-247, 1994.

6)  Clancy WG, Narechania RG, Rosenberg TD, et al. Anterior cruciate ligament reconstructions in rhesus monkeys. J Bone Joint Surg, 63A:1270-1284, 1981.

7) Rodeo SA, Arnoczky SP, Torzilli PA, et al. tendon healing in a bone tunnel. A biomechanical and histological study in dog. J Bone Joint Surg, 75A:1795-1803, 1993.

8) Shelbourne DK, Sullivan AN, Bohard K, et al. Return to basketball and soccer after anterior cruciate ligament reconstruction in competitive school-aged athletes. Sports Health, 1:236-241, 2009.

9) Barret AM, CraftJA, Replogle WH, et al. Anterior cruciate ligament graft failure.  A comparison of graft type based on age and Tegner activity level. Am J Sports Med, 39:2194-2198, 2011.

10) Salmon L, Russel V, Musgrove T, et al. Incidence and risk factor for graft rupture and congtralateral rupture after anterior cruciate ligament reconstruction. Arthroscopy 21:948-957, 2005.

11) Wright RW, Dunn WR, Amendola A, et al. Risk of tearing the intact anterior cruciate ligament in the contralaterall knee and rupturing the anterior cruciate ligament graft during the first 2 years after anterior cruciate ligament reconstruction. A prospective MOON cohort study. Am J Sports med, 35:1131-1134, 2007.

12) Myklebust G, Holm I, Mahlum S, et al. Clinical, functional, and radiologic outcome in team handball players 6 to 11 years after anterior cruciate ligament injury. A follow-up study.  Am J Sports Med, 31:981-989, 2003.

13) 中山寛、山口基、岩本淳ほか:前十字靭帯再建術後再受傷例の検討.スポーツ傷害, 10:7-8, 2005



1
ベンチ

2
サイドベンチ

3
片脚ブリッジ

今回の内容は吉矢教授、当院理学療法士水野先生に頂きました。

引用文献 

 

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現在、当グループで行なっている手術の現状について紹介させていただきます。

1.       前十字靭帯損傷(ACL)再建術

前十字靱帯の役割は膝の中央部にあって、大腿骨外顆の内壁と脛骨前方をつないでいる靭帯です。大腿骨に対し、脛骨が前方へ出ないように抑える役目をしている他、脛骨の回旋も制御しています。この靭帯損傷は多くはスポーツしている時に起こります。特にジャンプの着地の際に膝を捻る動作(足のつま先の方向に対し膝の方向が内側に入る)での損傷が多く、ラグビーやアメリカンフットボールなど選手同士のコンタクトでも起こります。また、男性よりも女性に発生することが多く、その頻度は2倍〜3倍と言われています。この靭帯は一度損傷すると、緩んでしまい、再び元の緊張に戻る可能性は少ない靭帯です。緩んだままではスポーツをする際、亜脱臼感が出現し、元のレベルに戻ることができません。また、緩んだまま放置しておくと、半月板損傷や、軟骨損傷につながっていきます。スポーツをされる方や、スポーツをしなくても若い方は将来的に起こってくる半月板、軟骨損傷を防ぐ目的に、靭帯を再建する手術が必要です。

当科では大部分の症例で、ハムストリング(ほとんどの症例で半腱様筋腱のみ採取し、これを半切して使用)を用いた解剖学的2重束再建術を行なっております。柔道、ラグビーなどのコンタクトスポーツ選手や再再建手術には膝蓋腱を用いています。

近年、ACL大腿骨側付着部の解剖が詳細に検討されるようになり、ACL付着部にridgeなるものが存在し、このridgeを手術中に確認することによって、解剖学的な位置に骨孔を作成することが可能となりました1)(1)。従来はinside-out法にて大腿骨骨孔を作成しておりましたが、ridge内に骨孔を作成することが困難な症例が多数みられました2)。そのため、現在はoutside-in法で骨孔作成を行なっております(図2,3)。これらの研究結果はSports Medicine, Arthroscopy, Rehabilitation, Therapy & Technology (SMARTT) Journalへ投稿し、accept(2013.9on site)されました。Ridge内の解剖学的位置に骨孔が作成された場合、ridge外に作成された場合と比較すると、回旋不安定性を示すpivot shift test陰性の割合が大きくなりました3)(4)。さらに、Pittsburg大学からの1重束再建か2重束再建かのlevelⅠのmeta-analysisでは、2重束再建の方が前方移動、回旋不安定性ともに制動されたと報告されています4)。そのため、当科では2重束再建術を行なっています。

図1
          図
1 
                  
 図3   
                      図2
                      
 図5                          
                            図3


  図2
                      図4
            

図4

            図5                     図6


当科での新しい取り組みとしては、ACL遺残組織を温存するACL再建術を行なっています。ACL遺残組織(remnant)には神経終末や、血管が多数存在しています5,6,7)(5)。そのため、再建時にこのremnantを切除するのではなく、神経筋協調(proprioception)、血行の早期改善目的に、remnantを積極的に温存しております。Remnantを温存することで、移植腱の早期再生につながると言われています8)。方法はremnant2~3本のsutureをかけ、(remnantは通常12時方向に癒着していることがおおいため)、内側に寄せながら(6)、大腿骨外顆内壁を郭清し、ridgeを確認します。骨孔を作成後、移植腱挿入時に同時に骨孔内へpull-outし、remnant自体にtensionをかけるようにしています9)(7)tensionをかけることにより、術後のcyclopsの発生や、滑膜異常増殖によるimpingementの予防になると考えています10)Remnantを温存させた解剖学的2重束再建術は、全国でも限られた施設でしか行なわれていません。ACL術後の最大の問題の1つは再受傷(再建靭帯再断裂)です。Remnantを温存し、移植腱の早期再生を促すことで、再受傷頻度の減少につながると考えています。

図6
               図
7

当科でのACL再建術の入院期間は2週間ほどです。スポーツ復帰は条件にもよりますが、術後68ヶ月としています。


 
引用文献:


11
 図1

 

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IMG_0594
明日は学内で講演会があります。そのスライド作りに追われています。

当グループで行なっています最新下肢関節鏡手術について講演します。
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当科ではレムナントといってもともとの前十字靭帯を温存させた解剖学的2重束再建術を
行なっています。これにより、再建した靭帯がより早期に成熟し、再建靭帯の再断裂を
少しでも防いでくれると考えています。


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また、小児の円板状半月板損傷に対し、以前は半月板全切除を行なっていたような
症例にも少し削り正常の半月板の形にし(形成切除)、縫合するという形成切除縫合を
行なっています。


192
さらに、後内側や後外側から関節鏡を入れ、以前なら大きく切開していたような
症例に対しても関節鏡の小さい傷で手術しています。

これらが明日発表する内容です。
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新潟で開催された第39回股関節学会で発表してきました。

臼蓋形成不全は股関節の軟骨の被りが生まれつき浅く、狭い範囲でのみ体重を支えることになるため、軟骨の摩耗が普通の股関節より早く進んでしまいます(変形性股関節症)。
今回発表した内容は、臼蓋形成不全股に対する骨切り術時に股関節鏡を同時に行い、関節唇を縫合するという内容です。関節唇は臼蓋の安定性に寄与している大事な組織ですが、臼蓋形成不全股の関節唇は高頻度に傷がついていることが分かっています。
そのため、当科では骨切りといって軟骨の被りを多くする手術時に同時に股関節鏡を行い、
損傷した関節唇を縫合しています。臼蓋形成不全股に対し、損傷した関節唇のみ縫合しても、
変形性股関節症進行するという論文が増えてきています。臼蓋形成不全股に対しては、
骨切り術でしっかり軟骨を被せ、さらに関節唇を縫合して温存させることが大切と考えています。スライド1
スライド2
スライド3



スライド4
臼蓋形成不全股に関節唇のみを縫合しても、関節症性変化が進行した例です。

スライド5
発表してきたスライドの一部です。
股関節学会で発表でき、当科股関節グループの福西先生、西尾先生に感謝です。


本日の朝9時に発表して、11時半の飛行機に乗り、14時から手術をしていました。
天候が悪く、飛行機が欠航になるのではと心配でしたが、15分遅れで伊丹に着き、ホッとしました。
今日はたくさん手術がありました。めまぐるしい1日でしたが、充実した日を過ごせました。

IMG_1384
今日の手術予定でした。。。

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